③ 屋久島旅行記

 

 昨年2012年の11月15日から20日までの6日間、鹿児島県にある屋久島に行ってきました。かれこれ6年ぶりの屋久島。世界自然遺産に登録されたことで一躍有名になり、「山ガール」の聖地?とされ、もちろんエコツアーなどの自然体験ツアー業が西表島以上に盛んな島です。
 当社のホームページの写真を撮ってくれたカメラマン柏倉陽介氏が、「11月になったら屋久島に行こう」と撮影旅行の時語っており、今回彼の仕事と絡めて僕と、モデルになってくれたトモエさんが屋久島入りをしたのでした。
 主な柏倉さんの目的は宮之浦岳での星空の撮影だったのですが、その際いつもお世話になっているという現地のアウトフィッター、「旅楽」の田平さんにお世話になり、今回の旅はかなり豪遊させていただきました。

 屋久島と西表島。日本の秘境といわれるフィールドでも特に自然が濃厚、かつ独特な生態系を持った場所、島だと思います。何かと共通点も多く、その中において特に発展している自然ガイド業のやり方は僕のような西表島のガイドにとっても為になるものではないだろうかとあさましくも思ってしまうのですが、学べるものは学び、理解できるものは理解し、楽しむところは楽しもうとそれほど重く難しく考えず、島に向かいました。結果的には深く考えることの多い旅ではありましたが。それをすべてここで書くこともどうかと思うので、西表島に来たことがあり、これから屋久島にも行くだろう人に言えることを書いて行こうかなと思います。

 11月15日、朝の鹿児島発のフェリーで屋久島の玄関、宮之浦港に着くと現地でガイド業をやっている新村さんが迎えに来てくれました。新村さんはフェザークラフト社製のカヤック、「カサラノ」を乗っているカヤッカーで、サーファーでもあります。この日はちょうど鹿児島からSUP(Stand Up Paddle Board)の業者が来て試乗会をやるというので新村さんの友人高見さん(通称:マサさん)とともに僕も便乗させてもらうことになりました。
 屋久島というと山のイメージが相当に濃いですが、海や川も最高にきれいで面白いです。僕は2005年に屋久島をカヤックで一周しましたが、外洋のエネルギーをガンガンに感じながら壮大な屋久島の山々を意識して漕ぎ進むのはかなり面白い旅でした。川に入ると西表島のようにしばらく静水面の中を進み、カヤックから飛び降りて清流に身をまかせるのはなんとも気持ちが良かったです。西表島で現在はやりつつある沢登り(シャワークライミング)も盛んです。



 11月16日は本来、2泊3日で山に入る予定だったのですが天候が思わしくなく、あくまで星空の撮影が目的だったために無理に行くのもあれなので、デイツアーで白谷雲水峡に行くことになりました。ベタな説明をすれば、「もののけ姫」の舞台モデルになったと言われている場所で、苔むした森が壮観なフィールドです。
 ガイドは「旅楽」の新米ガイド、山路さんが行うことになりその研修ということでオーナー田平さんをはじめガイドの宮西さんも同行し、6人で山に向かうことになりました。山路さんは新米といっても島の人で、それまできこりとして屋久島の森に入り、土埋木(現在、屋久杉は切り倒すことができないので昔の人が切り倒して山に残っている屋久杉を運び出し、利用している)をとる仕事をしていたバリバリの山の人で、形の崩れない髪型と引き締まった体にアーミー柄の軍パンが似合いそうなタフガイである。なんか僕からみても逞しくて頼りになりそうだ。それに話が上手い。きこりの現場の話と笑いが絶えない会話が続き、ガイドとしての潜在能力は抜群です。
 車で田平家を出発し、途中、峠道で車を降りて宮之浦を眼下に見下ろす絶景の中、朝食。しょうがの入った味噌汁が早朝の空気の中嬉しい。
 登山道入り口に到着すると、早速出発である。今回、柏倉さんはもちろんカメラマン、僕は仮にも同業者として素人でないので、ほぼトモエさんを対象としたツアーのような形になった。後ろから田平さんの目が光り、なんともやりにくそうな山路さんだったが僕にはとても興味の引く内容の話ばかりだったので、非常にためになった。
 ある程度アウトドアができれば、ガイドなんか必要ない。そう思っている人がいる。「遊べる」友人と話をしているとそんな会話も出てきて、ガイド業を生業にしている身分としては複雑な気分になる時もあるが、確かに自分の力で達成する楽しみという物もある。
 でもその一方でガイドをつけた方が面白いと思うシチュエーションもある。自分の好感を持てる人物がガイドをしてくれるとやはり旅が満足いくものになるなと、今回の山路さんのガイドでは思った。
 ある程度の知識はガイドブックや専門書で得られる。でも現地の生の情報や話はやはりガイドをつけた時の楽しみであるし、自分のできないことをやってくれるという意味ではそのフィールドの幅をより広めることができる。そして想定外の遊びを提供してくれる、何より安心感がある。タイミングの良い休憩、食事の提供などは時間の少ない中フィールドに来ている人には間違いなく快適に旅を楽しむことができる条件だろう。
 よくよく考えたら、人のガイドツアーに参加するというのも久しぶりだったもので、なんだかともかく、目から鱗のような、もしくは忘れていた事柄に目が行くようになった、ひじょうに為になるツアーだった。
 

 翌日17日はあり得ないくらいの大雨で結局出発は中止。雨脚が弱まった午後から田平さんの運転で島内観光をしてくれた。猿川のガジュマルや大川の滝などは、西表島よりもスケールが大きい景色に「やられた」感は否めないが、むしろ島同士を対比している自分の思考が可笑しかった。
 それにしても息子のアモン君が可愛すぎる。

大川(おおこ)の滝。落差88m。よく西表のピナイサーラの滝55mと数字を間違える私…。

 18日、いよいよ宮之浦岳に出発。今回のガイドは田平さん本人。このウルトラライトバックパッキングが叫ばれている昨今に、ありえない荷物を担いで行く。ある程度荷物を僕らにも分配しているとはいえすごい荷物だ。ほとんどが食料らしい。僕らシーカヤックでは荷物の重さはそれほど気にならないが、それでもなるべく軽くしたいと思っている。それなのに山でこの重量級。重たければ担げる体を作ればいいんだよと言わんばかりだ。優しい笑顔の田平さんがひょいひょいと大きい荷物を担いで歩いているのを見ると、やはりトレッキングガイドだなと感心するほかない。
 それにしても屋久島の森はきれいだ。淀川登山道入り口に着いた時には標高が高いこともあるのだろうか、青すぎる空と、キリっとした冷たい空気が清々しい。僕は6年前に屋久島に来た時、縦走もした。それはこの淀川登山口から入り、黒味岳、宮之浦岳に登り、新高塚小屋で一泊して翌日縄文杉、ウィルソン株を経由してトロッコ道に出て白谷雲水峡に入るというもの。当時は天候が最悪で、宮之浦岳に登った時はガスって景色は何も見ることができなかった辛い思い出がある。だから、見る物すべてが美しく、さらに友人といて、ガイドが説明までしてくれる。昼飯、夕飯も作ってくれ、まさにいたせりつくせり。ガイドツアーって、面白いなーと、自分がお客になって感じてみると良い仕事しているなという、自己陶酔におちいりそうだ。
 そのくらい、良い山歩き、ガイドだった。田平さんのところに多くのリピーターが来ていて、女性にも人気な理由がわかったような気がする。見習うところが多くあり、とても参考になった。田平さん、この場をかりてお礼申し上げます。



 撮影も終わり、翌日柏倉さんは単独で縄文杉方面に。僕らは来た道を戻っていった。ちょうど投石岳のあたりで朝日が昇り、雲海の上に太陽がのぞいた時は温かい暖色の光に包まれて非常に神々しい気分になった。すごいとこだな、すごい空間にいるなと感動してしまう。田平さん自身も、毎回ツアーをしていてもコース自体に飽きることはないという、その気持ちはとてもよくわかる。何度来ても楽しい場所。屋久島も西表島も、その持ち味は違ってもその共通点は一緒で、ガイドをしていても飽きない、むしろますます興味がわいてくるというフィールドで仕事ができるというのは、本当に素晴らしいことだなと思う。そしてお客さんとその感動を共有できるというのが、ひじょうに良い仕事だなと再認識した。

 
 
 
 
 
 

 山から下りると、トモエさんはそのまま空港に行き、大阪に飛んで行ってしまった。
 僕はそのまま6年前に屋久島滞在中にお世話になっていた畠中さんと合流して半日ではあったがシーカヤックを一緒に漕いだ。
 冒頭に書いたとおり、屋久島は海も素晴らしい。安房の畠中さんのお宅の目の前からカヤックを出し、田代海岸方面に漕いで行く。大きなうねりの入る海、そしてロックガーデン。西表島とは一味違った海岸の模様が面白く、無意味にロックガーデンに突入しては波にもてあそばれて遊んだ。何より海から見る屋久島の山はド迫力だ。愛子岳がきれいに見えた。
 今回は山だけになると思っていたのだが、新村さんのおかげでSUPができ、畠中さんのおかげでシーカヤックまで堪能することができた。
 屋久島自体面白い場所であるし、充実したガイドがそろっている。西表島もいろんなアクティビティーを提供する個性豊かなガイドがそろっているから、今後色んな意味でコラボできれば面白いな…なんてことも思いました。

 最後の晩は下山した柏倉さんとも合流し、田平さんのお宅で奥さんの料理をいただき、お酒も十二分にいただいて(笑)楽しい夜を過ごすことができました。柏倉さんもさすがに疲れたのか、途中からダウン。ただでさえ体力のいるアウトドアなのに、さらに写真を撮影する研ぎ澄まされた感性と集中力。すごい仕事を続けているなと友人ながら思います。彼のおかげで僕も色々と視野が広がる感覚があるので、ひじょうにありがたい存在です。ありがとう、カッシー。

 屋久島と西表島、どちらも自然豊かな島ですが、今回の旅で一番驚いたのは屋久島は島内で使用している電力のほとんどを島内の水力発電所でまかなっているという事実です。それも九州電力ではなくて屋久島電工が電力を作っているとのこと、つまり島内で完結している。これは羨ましいことです。近年クリーンエネルギーの早期開発供給、石油、原子力エネルギーの問題などが取りざたされています。島という環境では島内でエネルギーをまかなえる状態がベストだと僕は思うのですが、石垣島に電力を依存している西表島(竹富町)では学ぶ点があるように思います。
 水力発電所開発に関しても当時は色々と問題があったようですが、今はエコを売りにする島としては最大の売りではないでしょうか?
 自然環境の豊かな場所では「環境」と「人間のくらし」のバランスが自分たちで組みにくいことが多いと思います。地元としては開発が必要。しかし特有の環境を守ろうとする動きもあり、西表島ではイリオモテヤマネコを中心としてそれがまわっています。イリオモテヤマネコが発見された当初は島の人間はすべて他の島に移住すべきだという極論を持ってきた学者までいました。
 西表島の自然、動植物の繁殖力は半端ありません。ひとたび使用しなくなった山道はすぐに塞がり、空地はあっという間に樹木が覆い隠します。イノシシも狩猟圧がなくなるとすぐに農作物を荒らす害獣になります。木造建築はすぐにシロアリにやられ、車はすぐに潮風で錆びつきます。だから島民のほとんどは自然は敵だと思っている節があります。
 しかしその一方、島の自然はデリケートな部分もあったり、世界的にはとても貴重なものだったりで、イリオモテヤマネコをはじめとした希少種や独特の生態系は学者や自然保護関係者には保存してしかるべきものだというのです。
 我々ガイドはその狭間で西表島の自然を保護し、ガイドし、利用する立場にいます。
 登山道一つ見ても、しっかり整備された屋久島と、西表島の登山道を見て比べるとその自然に対する考え方は顕著です。西表島の山道は整備する必要がないという意見が多いのですが、僕はそうは思いません。むしろ人間の立ち入りを阻止しようとしている環境省や林野庁の動きには懸念さえ感じます。保護するべき場所は保護し、利用するべき場所は適度に整備する必要があると思うし、その利用に関しての需要はこれから増えると思います。

 自然を感じたい、自然の中で遊びたい、不自然な街の環境とは違う場所に価値観を抱きたいと思っている人は増えていると思っています。知らないところ、知らないことを知りたい。だからからこそ、僕らのようなガイドという仕事の需要が増えてきているのだと思います。
 それはけして西表島の自然環境に影響を与えない程度に行うべきであり、かつ自然を完全に「保存」する行為では行うことができないと思っています。
 屋久島も西表島も「島」です。
 水の流れで言えば、山と森が雨を受け、それが川となって流れ、海にそそぎ、そして天に上がってまた雨となります。そのサイクルを一巡をおってみることができる、実感することができるのが島です。島は日本の縮図だと言います。都市では人に分業している、任せていることを島ではある程度自分で行わなければなりません。造ること、直すこと、食べること、殺すこと。そんなことを伝えられるのも、また島の強みだと思いました。
 島で生まれ育った訳ではなく、よそ者の僕にはそのようなことを言う資格はまだないのかもせれませんが、西表島が好きなことには変わりません。そして日本という「島」の島民であり、この島が好きなのです。
 いろいろ考えることの多かった実りある屋久島旅行でした。
 皆さんも新たなる自分の発見ができる、良い旅をできることを祈っています。もちろん、西表島に来ていただければ、可能な限りお手伝いしたいと思っております。

 
PS:ちなみにこの時の撮影旅行で柏倉氏が撮った写真は小学館の「BE-PAL」2013年1月号(2012年12月10日発売)の表紙になっています。まだ本屋にあれば手に取ってみてください!
今月のBE-PAL  http://www.bepal.net/now/index.html
このページの写真全て:Yoshiyuki Akatsuka
今回お世話になった屋久島アウトフィッター LINK

屋久島ガイド旅楽 (田平):http://tabira.biz/

SPROUT (新村):http://sprout-yakusima.sakura.ne.jp/

屋久島Prana (高見):http://yakushima-prana.com/

SOUTH ISLAND (畠中):http://www.south8940.com/

 
カメラマンホームページ

Yousuke Kashiwakura :http://www.yosukekashiwakura.com/