はてのうるまに、ソバ喰いに

~日帰り波照間島~

 

 
  200610月に行った「 YAIMA  EXPEDITION」。
 天気の都合上、西表島から石垣島へと渡ることが出来ず、波照間島にも行く事ができなかった。
  2007年夏、西表島で働いていた僕はこの続きを行おうと島に Kー1を持ち込んではいたものの、仕事の都合と天気の悪化でこれまた行う事ができなかった。
 そして今年 2008年。
  7月一杯を西表島で働きに来て、要所で休みをもらい石垣島まで渡ることにしたのだが、ここでも仕事が忙しくて休みをもらうタイミングに恵まれず、とうとう月末の 28日から 31日にかけて休みをもらい、行く事になった。
 と、ところが八重山諸島を 26日から台風 8号が・・・!
 結局島を出る日程上、石垣島には渡れるが急いでやってもつまらないし、そのまま西表島をされるほど人との縁がないわけでもないので 81日、とりあえずやっておきたい波照間島に行く事にした。
 西表島最南端の砂浜、南風見田の浜。ここから海を眺めると、水平線にかすかに平たい島が見える。日本有人島最南端、波照間島だ。
 沖縄にははるか南の地に『ニラカナイ』という楽園があり、そこから豊穣を司る神様がやってくるという伝説がある。西表島から遠く眺める波照間島は僕にとってニラカナイであった。
 
 以前から、仲間内でこんなことを言っていた。 
「波照間島のターミナルにあるそば屋でソバ喰って、そのまま帰ってくるのやらない?」
 南風見ぱぴよんのオーナー、山元さんが石垣島に日帰りでソバを食べに行ったという話を聞いて、僕らスタッフはそれを波照間島でやってみようと考えたのだ。もちろん、移動手段はカヤックである。
 冗談で言っていたそんな話だが、実際今回、僕がそれをやる事になった。
 どうせ行くなら波照間島で遊んで一泊して 2日間でやりたかったが、日程的にきつかった。それに、カヤックを漕ぐという意味では日帰りでも十分可能な距離なのだ。 
「早朝 6時に出発して、 12時までに到着できなかった場合、一泊して翌日帰ってくる」
 そういうルールを決めて、僕は初の波照間島へのカヤック旅行を企画した。
 

  81日、朝 740分、出発。
 前日、ショップの仲間 3人で電灯潜りに行き翌日の事もあるので早々に切り上げて寝ようと思っていたのだが潜りだしたら止まらず、結局 11時まで潜って獲物の鰓を取ったり、鱗を取ったりしていたら 12時になり、それから一匹をさばいて刺身にし、どうしても一杯飲みたかったのでそれを魚にビールを飲んだら 3本も飲んでしまい、寝たのは 2時になっていた。 朝の 5時に起きて 6時に出発するはずだったが睡魔に勝てず、 6時半起きのこの時間出発となったのである…。やれやれだ。
 波照間島までは大体西表島から 30㎞と聞いていた。
 時速 5㎞として単純に計算すると 6時間の計算だ。だから 6時に出発して 12時に到着できなければ帰りの時間がきつくなる。その為、 12時までに到着できない場合日帰りをあきらめる事にしたのだ。だからこの時僕は日帰りを半分諦めていた。
 カヤックには 2リットルのスポーツドリンクを 2本、ソイジョイを 2本、好きな行動食であるオールレーズン一袋、スッパイマンを準備した。
 朝食に沖縄そばを食べて腹に物は入れておいた。長距離を漕ぐ際は空腹だと力が入らない。基本的に朝飯は食べないのだがこういう時は食べないと死活問題だ。
 天候は極めて順調。昨日までは台風の余波が残っていたがうねりも治まり波も静かだ。天気がよすぎて熱中症が怖いくらいだ。風は予報では 9時までは南東の風が 3m/s、その後正午から夕方にかけて6 m/s強くなり、夕方から夜半にかけてはまた 3m/sに戻るとあった。
 なんにせよ、カヤックの漕行に問題はない。
 

 

 リーフの際を難なく越え、そのまま微かに見える島を目指す。
 カヤックを漕いで 1日に 60㎞ほどの距離を漕いだ事はあるがそれは沿岸、コースタルカヤックでのことだ。 10㎞以上の海峡横断は何気に初めてであった。その為か妙にパドリングには力が入ったが寝不足のせいか目をつぶるとそのまま寝てしまいそうだ。寝る直前までビールを飲んでいたので胃の調子も悪い。それでもどこか平静でいられるのは自分で考えるほど深層心理に不安を抱えていないようだ・・・。
 正直、遠洋航海は暇だ。ひたすら漕ぐしかない。
 色々な事を考えながら、色んなアイデアを浮かべては忘れ、考えては忘れ、先に進んでいく。
 一人、だだっ広い海を漕いでいるとそこに現れる小動物たちにいたく癒される。
 海面に現れるウミガメ。
 洋上にさすらうベニアジサシ。
 こちらの様子をうかがう様に飛んでくるクロアジサシ。
 海上を滑空していくトビウオ。
 そして流線型の身体で華麗に上空を旋回していくカツオドリ。
 それらの生き物達との出会いに一喜一憂しながらパドルを水の中に差し込んでいく。
  1時間に一回休憩を取り、島の写真を撮っていく。 1時間も漕ぐとだいぶ西表島の島影から離れたような気になる。
 西表島と波照間島の間はこれと言って強い海流が流れているわけではないが、どちらかと言うと東から西にかけて流れが存在するという。洋上に出てみると南東の風と言われていたがかなり東が強い。波照間島の東突端を狙って漕ぎ進める。
  1時間半も漕ぐと島と島の中間点ぐらいまで来た感じだった。かなり速いペースだ。このまま行くと 3時間、もしくは 3時間半で着いてしまいそうだ。
 
 今回はいつものグリーンランドパドルではなく、コーモラントでもなく、ショップにあったニンバスのミスティック( 230㎝)を使用した。グリーンランドはもはや遠洋を漕ぐにはダルイとわかっていたし、コーモラントは短すぎる。長いワイドブレードでフェザーリングでガツガツ漕いで、とりあえずスピードを出そうと今回は思っていた。
 波照間島に着いたのは結局 3時間 50分ほど。
 島が見えてからはだいぶ時間がかかったように思えた。島の中心から西にある上陸予定地のニシ浜に狙いをずらしたことでだいぶ距離を漕いだように思える。
 何より疲れていた。前半でかなり飛ばしすぎた傾向がある。
 完全にペース配分を間違った。
 

  11 30 分頃、ニシ浜到着。
  大潮なのでかなり干上がってきている。それでも東洋一きれいな砂浜と言われるだけあって、見事な色彩。ビキニの女の子も多くて良いね~。 
「どこから来たのー!?」
  シュノーケリング船の船長が聞いてきた。西表島から来たと答えると、何時間かかったと聞いたので 4 時間と答えた。 
「あっははー!すごいなー!!」
 まわりで泳いでいるお客さんに、あの人西表島から来たみたいだよ~と、言っているらしく、シュノーケリングしている人が皆でこちらを見ていた。照れるな~。
  製糖工場の前の浜にカヤックを上げ、とりあえず海にザブ~ン。川の水が流れ込んでいるのか、妙に冷たくて気持ちがいい。
  PFD とスプレースカートを脱いで防波堤において乾かし、財布を持ってニシ浜を通り抜けて港へと向った。けっこう距離があるがずっと漕いでいたので歩くのは苦痛ではない。むしろこの暑さを何とかしてくれ…ってな感じ。
  港のターミナルで生ビールとソーキソバを注文する。
 ここのソーキソバは出汁が濃ゆくてかなり美味いのだ。ぱぴよんのシュノーケリングツアーでも、弁当も持っていくが昼食はこのソバも加わる。ちゃんと弁当もソバも食えるのだからすごいもんだ。
  キンキンに冷えた霜の浮いたジョッキに注がれたオリオンビールを間髪いれずに流し込む・・・。  
「・・・ックハー!!」
 筆舌しがたいとはアンタ、この事だよ!
 ほのかな肉体疲労と暑さの中、汗を流しながら飲むオリオンビールの美味い事よ・・・!このために俺は炎天下、カヤック漕いでここまで来たのだな~。
  ちょっと時間がかかったが 5 分ほどでソーキソバ登場。幻の泡盛「泡波」の瓶に入ったコーレグースを適量かけ、時間をかけずにいっきに食べる。ライスもたのみたかったが食べすぎは良くないので止めといた。
 少ししょっぱいかな~と思える味が暑いここでは最高だ。ホロホロとほぐれるよく煮えたソーキも美味い。満足して店を出た。
 

 

 
  この調子だと日帰りは余裕そうだ。 2 時までに出発すれば最悪、日が暮れるまでには西表島に帰れそうである。
  レンタル自転車を借り、軽く島を観光。
  泡波を捜しに売店を巡るが何故かほとんどの場所がやっていない。時間帯が合わなかったようだ。最南端まで行こうか迷ったが、ちょっと時間がかかりそうなので止めた。 1 時間しか自転車借りなかったので帰りにお土産屋「もんぱのき」により、 8 年振りにここのTシャツを買ってカヤックに戻った。
 

 


  13 40 分出発。
  帰りは風が強くなっていた。予報どおりだが、 6m ではなく 7 8 はありそうだ。しかも南ではなく完全に東からだ。真っ直ぐ西表に向かったら鹿川湾に流れそうなので新城島があるだろう場所を目指して漕いで行く事にする。
 来た時より長期戦になるかもしれないのでペースを少し緩めた。
  2006 年に行った YAIMA   EXPEDITION では石西礁湖周りを漕いだので外洋に出たのは極わずか。今回の西表~波照間島はモロ外洋ではあるが、それほど大きなうねりも入らず、風も東なので波も砕けないので安定した海といえただろう。
 島と島の中間点では多少波がデッキを洗う事もあったが、期待していたような外洋のそれではなかった。
  帰りは風が強いので大変かと思ったが、時間と距離を考えると思ったより距離が稼げている。 4 時間経過した時、まだ島には到着していなかったものの、忘れな石沖1㎞地点にはいたと思う。
  リーフの中に入り、南風見田浜のリーフ内でそのままカヤックからドボン。シュノーケリングをして体をほぐしてから上陸した。
  18 05 分、到着。
 30 kmと思っていた距離は、あとで海図を見て測ってみたら 22 ㎞しかないことがわかった。意外に数字にしてみるとたいしたことがないものだ。
 しかし、海の向こうに見える波照間島はいつものように、はるか遠くの存在になっていた。
 

 

 

 
  直線距離で合計 44 ㎞。それだけの距離を上陸した時間を考えたとしても 1 日で漕いでいったのだから、まぁ上々と言って良いのではなかろうか?
  海峡横断の練習として波照間島はちょうどいい距離のようだ。日帰りでなければ波照間から新城、もしくは黒島に直接渡ってしまうのもありだろう。
  とりあえず八重山の島巡りにおいて、また一つ課題がクリアできて満足です。
  次は何はともかく西表島から黒島経由、石垣島かな。与那国にも機会があればチャレンジしてみたいもんです。